世界で唯一尊敬する喫煙家と煙草の話

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タバコは嫌いです。
離婚して行方知れずになった父親も、マザコンの兄もタバコを吸っていました。
ポイ捨てされているタバコ殻、歩きタバコ、自転車タバコしている人を見るにつけ、その煙が顔にかかるにつけ、タバコなんて害にしかならないモノの何が良いの?と心底思います。
でも、一つだけ、その煙を肺いっぱいに吸い込んでみたいと、憧れた煙草があります。
「この人だけは」と庇いたくなる喫煙家がいます。

十年前のその日、私は大学の教官室に呼び出されていました。
その前日は、春休みだと言うのに大学の学務部に出向いていました。
いつもは無愛想な職員が、「本当にいいの?」と、優しい心配の表情をその顔に滲ませていました。
私は「はい。お世話になりました。ありがとうございました」と言って、大学を去りました。
涙も出ず、吹っ切れた気分で徒歩40分の道のりを軽やかに歩きました。
除籍の理由は学費未納です。
除籍とは退学とは異なりその学校に存在したという事実まで消えてしまう事務手続きのことです。
私の在学期間1年間はその期間の奨学金と言う負債だけ残して消えることとなりました。
授業料を払うために貯めていた奨学金が母親に浪費された、という事実が裏にあっても、奨学金を借りていたのは私、学費を払わなかったのは私なのです。
借金背負って除籍、当然なのですね。
「私、就職できるのかなあ、履歴書にはなんて書こうかな、借金どーしよ」なんて、考えているうちに家に着きました。
「おかえり~。辞めてきた?」と言う母に「うん」と一言。
怒らせるとめんどくさい人なのでこんな時すら、「なにがおかえりだよ」と悪態をつくこともできません。
私が黙っていると、「なんかごめん」って。
なんでこの人は神経を逆なでするのがこんなにうまいんだろう。
心のどこかに欠陥があるんじゃないだろうか。
「いや、」と言いかけた時、私の携帯が鳴りました。
「もしもし、○○(私の苗字)さん?」。
この声は。
私が来年からお世話になることを希望していた教授の声でした。
学務部から私の所属学部の事務局に連絡が入り、偶然その連絡を受けた職員が私の数世代上の先輩にあたる人で、電話の主である先生の教え子でもあったそうで、「知らせを受けてびっくりしちゃった」と、先生は電話の向こうで笑っていました。
「とりあえず、明日来なさい」。

人生初の教官室。
ノックすると、「どうぞ」と軽やかな返事が返ってきました。
「失礼します」とドアを開けた瞬間、ふわぁっと甘い香りに包まれ、その香り吸い込むと、それまで見ないふりしていた心の傷にぴたぴたと貼り付いて溶け込んで癒してくれるような気がしました。
先生の吸っていたチョコレートの香りのタバコ。
これが私の、世界で唯一尊敬する喫煙家とその煙草です。

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